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2010年9月20日ロイヤル・オペラ公演《マノン》

武田雅人

アベ・プレヴォー(1697~1763)の小説「マノン・レスコー」を原作とする有名なオペラは、マスネの《マノン》(初演1884年)とプッチーニの《マノン・レスコー》(初演1893年)のふたつありますが、今回、英国ロイヤル・オペラが来日公演で演奏したのは前者です。

指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:ローラン・ペリー
美術:シャンタル・トーマス

マノン:アンナ・ネトレプコ
騎士デ・グリュー:マシュー・ポレンザーニ
レスコー:ランセル・ブラウン
ギヨー:ギ・ド・メイ、ブレティニ:ウィリアム・シメル
伯爵デ・グリュー:ニコラ・クルジャル
ブセット:シモナ・ミハイ
ジャヴォット:ルイーゼ・ギネス
ロゼット:カイ・リューテル

 題名役のネトレプコが期待どおり、すばらしい演奏だったので、やや退屈なところもあるこのオペラを最後まで緊張感を持って聴くことができました。ネトレプコは、出産を経て顔が少しふっくらとしたうえウェスト周りもかなり限界に近づいているものの、オペラ歌手としてはまだ許容範囲のうちといえましょう。
 第1幕の、おさげ髪に帽子をかぶるいかにも修道院に入れられる寸前の少女という姿は、ちょっと苦しいものがありましたが、はつらつとして子供らしい動作をする演技力でカバーしていました。第3幕のお金持ちの愛人になってからのゴージャスな美女役はまさにぴったり。

 そうした見た目以上にこの主人公の役柄にあっているのは、その魅力的な声です。媒体を通して聴いても美声であることはわかりますが、ナマで聴いたときの感動までは伝わりきらない、そうした種類の独特の惹きつける響き、色艶を持っている声だと思います。鈴をころがすようなクリスタルな美声ではなく、すこし陰影を帯びたヴェルヴェット系の音色で、要するに色っぽい声なのですね。まさにマノンにぴったりといえます。
 現在世界的に活躍しているリリコ系のプリマ・ドンナたち、たとえばフレミング、ゲオルギュー、フリットリなども、それぞれ美しくかつ大劇場に負けないよく響く声を持っていますが、そのしっとりした情感の漂う音色そのものの美しさ、響きの豊かさに関しては、ネトレプコの声が一頭地を抜いていると私には思えます。声の質はかなり違いますが、ナマで聴いたときの質量とか心地よさ、という点では往年のミレッラ・フレーニの声を聴いたときの快感に近いものがあります。 
 もちろん、声そのものの魅力だけでなく、歌いまわしのうまさとか、演技力の点でも、ネトレプコの歌唱は、単なるコケットや悪女ではないマノンの複雑な性格を表現しきれているように感じました。私がこのオペラをナマで聴くのは、97年にMETでルネ・フレミングが歌うのを聴いたことがあるきりで、あまり比較対象がないのですが、現在マノンを歌わせたら、彼女以上のソプラノは考えることができないような気がします。
 特によかったのは、第3幕第2場(サン・シュルピス修道院)でデ・グリューを誘惑する<この手を思い出して…>。ダリラやカルメンのようなメッゾ・ソプラノが歌う妖艶な誘惑シーンに匹敵します。それにしても、マスネはタイスも書いているし、フランス語のオペラにだけ、この手の女性が多いのはなぜなのだろう?

 相手役のデ・グリューを歌ったアメリカ人テノール、マシュー・ポレンザーニも、好演でした。特に彼のうまさが光ったのは全幕を通してマノンとの2重唱の場面。弱声のコントロールが完璧で、フランス・オペラのスタイルを踏まえた非常に柔らかく優美な発声で、たっぷりとした情感を出していました。テクニックだけでなく適度な甘さのある美声もなかなかです。ただし、第3幕第2場(サン・シュルピス修道院)で歌うアリア<消え去れ、優しい面影よ>では、もう少し高音の張りと熱気がほしいところです。
 歌手陣の中で、そのほかに眼(耳)を惹いたのは、デ・グリュー伯爵(父)を歌ったニコラ・クルジャル。もともと予定されていたキャストの急病による代役だそうですが、非常にやわらかでよく響く美声をもったフランス人の若手バスです。ベル・カント系のお父さん役でも重宝しそうな声で、今後注目していきたいと思います。
 パッパーノは期待どおりの溌剌とした指揮ぶりでしたが、各幕が開く前の前奏曲がどうにも退屈なのはマスネの音楽がその程度ということなのかどうか。

 一番問題だったのは、ペリーの演出です。この作品について、私は、METにおけるジャン・ピエール・ポンネルのプロダクションしかこれまでに観たことがないので、どうしてもそれとの比較になってしまう、ということもあるかもしれませんが、まず時代設定が気に入りません。
原作の時代設定から、オペラ作曲当時に時代をずらす、というのは最近よく行われる手法ではありますが、この場合はあまり成功しているとは思われません。
「マノン・レスコー」といえば背景は、ルイ15世の時代、ギンギラギンのロココ、ポンパゥール夫人やヴェルサイユの薔薇の世界です。フランス革命も産業革命も経た19世紀後半のドガやロートレック描くところの風俗の中で繰り広げられるのでは、せっかくのマノンの破天荒ぶりが2~3割色あせてみえてしまいます。
 もっとも、これはロイヤル・オペラの公演です。ローラン・ペリーはフランス人ですが、英国人向けということを考えたのでしょうか。英国の19世紀後半といえば謹厳実直なヴィクトリア時代ですから、その一見謹厳実直風な紳士たちがステッキの先でバレリーナのスカートをまくったりする好色ぶりを発揮するシーンは、それなりに意味があるものなのかもしれません。しかし、人々が既に革命を経験済みであり、ヴェルディの《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》がすでに世に出てしまっている時代のフランスにこの物語を持ってくる、というのは、やはりセンスとしておかしいといわざるを得ません。

 おかげで、第4幕賭博場のシーンでは、賭け金は「1000ルイ」という言葉が飛び交っていながら紙幣がやりとりされ(ルイは金貨のはず)、警官に踏み込まれたところでマノンがその紙幣を床にばらまいてしまいます。そこへ父・グリューがやってきて一節歌うところなど、《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》第2幕第2場をあまりにも彷彿させてしまいます。これは、作曲者マスネにとって最も避けたい演出といえましょう。当時のオペラ界においてヴェルディの権威は既に確立しており、その亜流と思われるのは最大の恥辱であったはずだからです。
 それに、ファム・ファタールとしてのマノンを造型するのに、第1幕ではおさげ髪の少女、第2幕ではスカートなしで素足もあらわに男にからみつく娼婦的な女、第3幕第1場では最新ファッションに身をつつんだゴージャス・マダム、第3幕第2場では肩もあらわな白いロングドレス(花嫁衣裳にも下着にも見える)で聖堂の中に侵入してくる女、第4幕では真っ赤なカクテルドレスの遊びなれたセレブ風の女、という具合に、あまりにもわかりやすい、というか説明過剰な記号が使われているのも、音楽の力を馬鹿にしているとしか思えません


 この物語の本質が聖と俗がせめぎあう混沌であるとすると、このようなわかりやすい色分けは困るのです。そして、なによりも、私としては、ポンパドゥール夫人のようなルイ王朝風の衣裳に身を包んだネトレプコが婉然と微笑むのを見ることができなかったことが、残念至極なのであります。






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