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玉三郎公演の「昆劇」と「八千代座」を観て

武田雅人

 最近、1週間の間に坂東玉三郎の特別公演を東京と山鹿(熊本県)で観ました。歌が主体の中国伝統劇と日本の伝統舞踊、首都の新しい劇場と100周年を迎える地方劇場という具合に内容も空間も大いに違うものを玉三郎がどう演じ分けるのか、興味はつきませんでした。
 昨年1月から今年の4月まで16か月にわたって行われた「歌舞伎座さよなら公演」で、花子(京鹿子娘二人道成寺)、政岡(伽羅先代萩)、八ツ橋(籠釣瓶街酔醒)、揚巻(助六所縁江戸桜)といった女形の代表的大役を次々と演じた玉三郎はまさに「平成の立女形(たておやま)」といえましょう。芸の力が円熟のピークにあるときに、記念碑的な大舞台の機会を得られたことは役者冥利につきることだったに違いありません。
 そうした「本業」における栄光の大仕事を終え一段落したという充足感もあったのでしょう、従来から彼が歌舞伎の本舞台とは別に取り組んできたこれらの「特別公演」では、普段にも増してリラックスした、しかしながら持ち前のオーラが一段と輝きを増したような雰囲気が感じられる舞台となりました。

舞踊公演《羽衣》《吉野山》(2010年10月31日、八千代座)


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(左は著者撮影の八千代座正面入り口、右は坂東玉三郎HPから拝借、八千代座内部)

 昨年に引き続き、熊本県山鹿市の八千代座で行われる玉三郎舞踊公演に行ってきました。今回は前日から山鹿温泉に宿泊。菊池川の眺めが良い清流荘という旅館にとまりました。そこで聞いた話では、玉三郎は近くの富士ホテルを定宿にしているそうです。山鹿の温泉は、無色無臭のアルカリ単純泉で肌がすべすべして湯あがりがさっぱりとした感じのお湯です。

 今年は八千代座百周年、玉三郎公演が始まって20周年という記念公演。三年前から始めた《お目見え口上》は、今年初めて共演の中村獅童も登場してふたりによる口演となりました。そこで玉三郎が述べたところによると、「一昨年の《鏡獅子》、昨年の《京鹿子娘道成寺》と大曲を上演したことにより八千代座で行う演目をほぼやり尽くしてしまったので、今年は、今まで演じた中で評判が良かった《羽衣》と《吉野山》を再びとりあげることにした。」とのこと。
 本来ならば記念公演ですからもうひとつ大きな作品をやるという考え方もあったはずですが、さすがの玉三郎も歌舞伎座さよなら公演で大役を演じ続けてきた後ですから、今回はやや軽めでしかもソロというよりはデュエットで負担を軽くしたい、ということなのでしょう。
 もともと昨年1月に歌舞伎座で《鷺娘》、11月に八千代座で《娘道成寺》をこれで最後、と宣言して上演しています。彼の美意識からするとソロの舞踊公演はもう体力的に限界と考えているのかもしれません。相手役に弟子筋以外の名題の役者を呼んでくるのも平成七年に辰之助(現松禄)を起用して以来のことのようです。
 口上では、初日ということもあってか、劇中のせりふでは決して噛むことがない玉三郎が、途中で言葉につまるところなどもあり、ひさしぶりに舞台で日本語をしゃべるという感じが出ていました。

 《羽衣》はいわゆる能取りもの。金色の冠をいただいた天女の姿が、ご当地山鹿の灯篭踊りの娘さんの姿と似ているところも八千代座で人気のあるところなのかもしれません。平成二年(初回)、平成七年(第七回)、平成十三年(第九回)に続いて四回目の公演となります。
 羽衣伝説はアジア各地にあり、インドネシアのバリ島でも同じような話が絵になっているのを見たことがあります。いわばインターナショナルな役柄です。次の静御前が純日本的なヒロインであるところ、つい先日赤坂で観た《牡丹亭》のいかにも中国的なヒロインから段階的に日本のそれへとイメージが回帰するような面白さがありました。《鷺娘》の鷺の精とか、《関の扉》の墨染など、この世のものならぬ存在は玉三郎の得意とするところ。客席と花道、舞台の距離が近い木造の小屋で観る天女の姿はまさに夢幻的な美しさに満ちていました。

 《吉野山》は、丸本もの(文楽が原作)三大名作のひとつ《義経千本桜》四段目前半の《道行初音旅》を単独で上演する場合に使われる名称です。この曲は、玉三郎が九月の京都南座公演でも市川海老蔵を相手に踊っているのを観たばかりなので、はからずも獅童(昭和47年生まれ)と海老蔵(昭和52年生まれ)を観比べるかたちになりました。
 歌舞伎界の盟主市川団十郎家の長男として初めから役に恵まれていた海老蔵に対し、三代目時蔵の孫とはいえ父(初代獅童)が早くから歌舞伎界を離れていたため後ろだてがなく、最近になってやっと主役級の役がつくようになった獅童の芸風の差は明らかで、実力で這い上がってきた者の強さが後者にはあります。
 もちろん地位は人をつくるということもあるのでプリンスにはプリンスの良さがあり、この吉野山の場面における佐藤忠信の匂いたつような若武者ぶりという点では、海老蔵の持って生まれた華やかさやオーラというものに歩がある部分もあるのですが、舞踊動作のキレ、時々はからずも現れてしまう本性である狐のしぐさの様式感、武勇を語るところや花四天との立ち回りにおける力強さ、といった点で獅童の方に一日の長があるように思われました。
 もっとも花四天(舞踊劇に登場する様式化された捕り方や軍兵。武器のかわりに花の枝を持っている)を引き連れて頼朝方の追っ手逸見藤太が登場して立ち回りを演じるシーンは、本来、通し狂言《義経千本桜》では二段目の《鳥居前》にあり、九月の南座公演でもそこで演じられていましたが、今回の八千代座公演のように《吉野山》単独上演の場合は、この道行のシーンに挿入されることが多いようです。このため、南座公演ではあくまでも美男美女の道行という優美さが強調されていたのに対し、八千代座公演では忠信の武者としての強さにもスポットがあてられるという演出の違いがありましたので、両公演を単純に比較することはできないかもしれません。

 なお、逸見藤太を演じた市川猿弥をはじめとして花四天で登場した若い役者たちの主体は猿之助の弟子筋の人々で、狭い八千代座の舞台や花道で見事なトンボを切ってみせていました。猿之助が倒れて以降、玉三郎がこの一座の面倒をみていることの一環なのでしょう。今回、獅童が忠信を好演するのを観ていて、猿之助が得意にしていた《四の切(川連法眼館の場)》の狐忠信も獅童がやるととてもいいのではないか、と思いました。宙乗りなどのケレンもうまそうな感じがしますので、彼が猿之助一座の座頭を継承したら面白いのでは、という考えが頭をよぎりました。
 歌舞伎の《吉野山》では唄に清元を入れるスタイルもありますが、今回は義太夫のみで、やや骨太な感じがします。しかしながら、桜満開の山を背景にして美しい男女が舞う夢幻的な空間の優雅な感じというのもよく表現されていたように思います。

 八千代座の内部は、黒光りする板材や柱、ゴザ敷きに木の桝をめぐらせた平土間などに江戸時代の芝居小屋の面影を残す雰囲気があるとともに、見上げると格天井には大正時代のスポンサーたちだった呉服商、酒屋、海産物問屋などの色彩豊かなペンキ広告が並び、真ん中にはアールヌーボー風の植物型の曲線でできた真鍮の電球シャンデリアが下がっているというちょっとキッチュなたたずまいの中、二階にわかれた700ほど客席を埋め尽くす観客のひとりひとりの顔が見分けられる近くて濃密な空間です。
 ほとんどの席は座布団にそのまま座る形式でしかも非常に狭い場所に詰め込まれているので、あまり快適とはいえませんが、そうした不自由さを乗り越えてこの濃い空気を吸いにきているという一体感が客席にはあります。そうした観客の息づかいが舞台の上にも伝わるのか、役者が放つオーラにも何か熱を帯びるものがあるようです。
 とくに花道に出てきた時の二階席を含めた観客席との近い感じが、なんともいえません。大劇場で観ても独特の、いわゆる「ジワが立つ」瞬間を味あわせてくれることが多い玉三郎の存在感が、この小屋の中ではよりいっそうこの世のものならぬ雰囲気を漂わせるのです。
幸い、私ども夫婦は平土間後方の角(入り口に一番近いところ)のふたり用の桝席だったので前に足を投げ出す余地があり、それほど窮屈ではありませんでしたが、それでも椅子に馴れた人間には胡坐は疲れる姿勢でした。SS席2万円は歌舞伎座の特等席より割高です。しかし、それを高いとは感じないで済む特別の体験ができる空間でもあったのです。

 幕切れでは、まず玉三郎の静が花道を引っ込み、そのあとを追おうとする花四天とひと立ち回りしたあと、勇壮な狐六法を踏んで忠信が引っ込むという、客演の獅童に花を持たせる演出になっていました。
 いったん定式幕が引かれたあと、例によって、歌舞伎座ではあり得ないカーテンコールが行われます。今年は、昨年にもましてオペラスタイルの本格的なカーテンコールで、玉三郎と獅童がまず左右の客席を見渡して挨拶をしたあと、竹本連中、花四天の役者たち、つづいてソリストの猿弥、獅童という具合に喝采を受けさせ最期をまた玉三郎が締めくくるという形。獅童が調子にのって投げキスなどもしたので、私も屋号でかけ声をかけるだけでなく、つい「Bravi!」などと叫んでしまいました。






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