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ボリショイ・オペラ来日公演《スペードの女王》(2009年6月21日)を観て

武田雅人

 6月21日にNHKホールで行われた、モスクワのボリショイ歌劇場来日公演《スペードの女王》を観たので、感想を以下に記します。主な配役は下記のとおり:

 ゲルマン:ウラジミール・ガルージン
 トムスキー伯爵/プルートー:ボリス・スタチェンコ
 エレツキー公爵:ワシリー・ラデューク
 伯爵夫人:エレーナ・オブラスツォワ
 リーザ:エレーナ・ポポフスカヤ
 ポリーナ/ダフニス:アンナ・ヴィクトロワ
 マーシャ/クロエ:アンナ・アグラトワ
 指揮(音楽監督):ミハイル・プレトニョフ
 演出:ワレリー・フォーキン
 装置:アレクサンドル・プロフスキー

 チャイコフスキーのオペラの中では、私は《エフゲニー・オネーギン》よりもむしろこの《スペードの女王》が好きで、何度かナマのオペラ公演を観ています。今回は2000年2月のマリインスキー劇場(当時はキーロフオペラと称していた)公演以来、久しぶりです。
 ニューヨークのMETで聴いた3回の公演および2000年のキーロフ来日公演は全てワレリー・ゲルギエフの指揮でした。今回はミハイル・プレトニョフの指揮。これが、ゲルギエフに勝るとも劣らないレベルのもので、ボリショイのオーケストラや合唱の重厚な響きを十分に引き出しているうえ、天才ゲルギエフとは別の個性をもった解釈で、今までのこの作品とは違った印象を受けるものでした。プレトニョフは、ピアニスト、シンフォニー指揮者としてキャリアを積み上げてきた人で、ピットの中で振る本格的オペラ公演はこのボリショイ劇場2007-2008年シーズン《スペードの女王》が初めてだったとのこと。

 プレトニョフの音楽づくりのゲルギエフとの大きな違いは、チャイコフスキーの音楽のロマンティックな側面を重視し、暗く激しい情念の表出とバランスをとろうとしているように感じられた、ということです。
 こうしたプレトニョフの音楽作りでは、主人公ゲルマンのもつ二重性、すなわちリーザに対する青年らしい一途な恋と、地位も財産も無い自分がその恋を成就するためには金が要るという現実的な打算から賭博にのめりこむ狂気の部分、そのどちらもが真実であることをチャイコフスキーの音楽が語っていることを素直に表現することに成功していたような気がするのです。
 これに対し、ゲルギエフのコントラストがはっきりした「劇的な」音楽作りは、ともするとヴェリズモ風の荒々しさや暗さが強調され、ゲルマンの狂気の方が強調されるところがありそうです。このゲルギエフ流の解釈では、リーザはゲルマンの「3つのカードの秘密」に対する妄執のために利用されただけの存在になってしまい、救いのない陰惨なドラマとなります。

 この違いがはっきり出たのが、第3幕第2場、運河でふたりが再会してから交わす2重唱です。ゲルギエフの上演では、ここでのゲルマンはすでにうわの空で、うわべだけの愛の言葉をリーザにあわせて口にする形になるのですが、プレトニョフ版では、ゲルマンにいったん正気が戻り、本気で愛を語らっているように感じさせます。ここでのチャイコフスキーの音楽はあくまでも甘くロマンティックなのです。そのあと再びゲルマンに狂気が宿り「賭博場へ行こう」と口走ることになる。その2重人格的な不安定な性格こそチャイコフスキーが書きたかったものではなかったのか、ということが改めて認識させられた演奏でした。 

 そして、ワレリー・フォーキンの演出は、そうしたプレトニョフの音楽解釈を補完する役割をうまく果たしていました。たとえば、上記の第3幕第2場、リーザとゲルマンは再会はするのですが、リーザは2重になった舞台の上の空間にいるのに対し、ゲルマンは下の空間に現れ、最後までふたりは同じ面の上に立つことがありません。音楽的には濃密で甘い2重唱を歌いながら視覚的にはふたりの間にどうしようもない隔たりがあることを表しているのです。

 この2重の舞台という構造が、このプロダクションでは全幕を通した装置になっています。第1幕第1場のペテルブルグ「夏の庭園」公園のシーンから一貫して、ほとんどの登場人物は舞台上に架けられた橋の上を行き来し、最初のうちは下の空間はあまり使われません。しかし、第2幕第1場仮面舞踏会のシーンで、上の空間でリーザに向かってエレツキーが有名なバリトンのアリアを歌う間、下の空間にゲルマンが現れうろうろするので、リーザがそちらに気をとられてうわの空になる、というところから、徐々に芝居は下の空間も使われるようになっていきます。そして第3幕第3場大詰めの賭博は下の空間で行われゲルマンもそこで死にます。こうした舞台の構造も、ゲルマンの心の二重性を象徴しているようでした。

 登場人物たちは、ほとんどが黒づくめの服装で、帝政ロシアの貴族社会の華やかさはなく、まるで禁欲的なヴィクトリア朝のようで、最初は少し違和感がありました。特に、METのモシンスキー演出では、登場人物たちが銀色と黒のコントラストがはっきりしたモダンな感覚の美しい衣装を着ていたのに比較すると、一見いかにも地味で暗く見えます。しかし、これは、色彩は全て音楽に語らせようという意図があったようです。なお、パリ時代の伯爵夫人の幻影だけは白づくめのドレスにマリーアントワネットやポンパドゥール夫人の肖像のようなプラチナブロンドの鬘をつけて出てくるのも効果的でした。スペードの女王が白というのは少し変ですが。

 ゲルマンを歌ったドラマティック・テノールのガルージンは、2000年2月のキーロフ公演と唯一同じキャストでした。その時も、そのテノール離れしたたくましい中音域に驚嘆し、声を聞くだけで快感と思ったものですが、今回の方がさらに感銘深いものがありました。上記にのべたプレトニョフのロマンティックな面を強調する音楽作りに、彼が十分に応えて、迫力ある声とともに繊細でリリックな表現もものにしていたためと考えられます。  トムスキーを歌ったスタツェンコが声量の点でガルージンに一歩もひけをとっていなかったため、さらにドラマに厚みが出ました。ボリショイの合唱団も立派な声で、音響があまりよくないNHKホールのだだっ広い空間を苦にしない響きを聞かせてくれたのがさすがです。
 そして、なんといっても存在感が凄かったのはエレナ・オブラスツォワ。METの公演でもこの伯爵夫人の役は往年のプリマドンナが演じるのがお約束のようになっていますが、彼女はもともとメッゾで、歌い盛りの頃からリサイタルなどではよくこの伯爵夫人のモノローグを歌っていて得意としていたこともあるので、年齢からくる貫禄だけではない迫力でした。
 リーザのポポフスカヤは、容姿もなかなか美しく説得力があるうえ、声にも力があってこのヒロイン役になんの不足も感じないものでした。
 エレツキーは、METで聴いた3回の公演ともきわめつけというべきフヴォロストフスキーだったので、どうしても他の歌手では不足感を禁じえないのですが、今回のラデュークはそれほど悪くありません。ディミートリほどの陰影はないのですが、なかなかの美声であり、例の名アリアはプレトニョフのロマンティックなオーケストラの線にのって非常に美しく歌えていたと思います。







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