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2013年10月19日 新国立劇場《リゴレット》

武田雅人

 新国立の2013~14シーズンの口開け公演。生誕200年でありながら今シーズンのヴェルディ作品がこれ1本というのは寂しいですが、とにかく1本だけとなると、8月のヴェローナ、先月のスカラ来日公演に続く《リゴレット》のハシゴとはなりますが、やっぱり聴いておこうか、と一般公演最終日(22日に貸切公演あり)に行ってまいりました。

 題名役のマルコ・ヴラトーニャは、今年のヴェローナでは《ナブッコ》の題名役を聴いてヴェルディ・バリトンらしい高音の輝かしさと男らしい音色を持つ声で期待の持てる若手と思っていました。今回も、力強さという点では少し物足りなさも残るものの美声を活かし、表現力も豊かで立派な歌唱だったと思います。ただ、演技の面では、せむしのこぶがある割には背筋が伸びた良い姿勢で堂々と歩いてしまうので、先月に観た不具者の悲哀を漂わせながら歩くヌッチの至芸と比べるとまだまだという感がありました。
 ジルダのエレナ・ゴルシュノヴァは、役に合った可憐な美声が役によく響いており、アジリタや高音を含めて安定感のある歌唱の聴かせてくれました。永年マリインスキー劇場でゲルギエフの薫陶を受けてきたただけにフレージングの様式感も確か、容姿も美しく、不足感は全くありませんでした。
 マントヴァ公爵を歌ったウーキュン・キム。今年、ベルリンで《仮面舞踏会》のリッカルド、ミラノで《マクベス》のマクダフを歌っているとのことで、中音域に力強さもある美声ですが、この日は調子が万全ではなかったのか肝心の高音にやや精彩を欠き、伸びや艶が感じられませんでした。いかにもアジア系の丸顔短足で、ハンサムな貴公子役はちょっと苦しいものがあります。特にこの日の演出ではジルダを誘惑する場面で革ジャンを着て登場。その姿がチンピラの兄チャンにしか見えず、痛かったです。

 日本人キャストの中で良かったのがスパラフチレの妻屋秀和。深々としたバスでこの役に何の不足感もありません。マッダレーナの山下牧子は声も演技もまずまず、といったところ。スカラ来日公演のケモクリーザがめっぽう色っぽかったので、比べてしまうのは気の毒かもしれません。
 一方、モンテローネ伯爵の谷友博は(場内からはブラヴォーの声も出ていましたが)全くの迫力不足。2001年のサントリーホールオペラで不調のブルソンを途中からカバーしてロドリーゴを歌い切った彼を鮮烈に憶えていたので期待していたのですが残念です。スコアではバリトンと指定されているこの役はやはりバスが歌った方がいいようです。たとえば牢番役の三戸大久が、チョイ役ながらおやと思うほど強い声を出していました。彼にモンテローネをやらせたらよかったのかもしれません。

 ローマ生まれの若手指揮者、ピエトロ・リッツォの指揮は的確で、ヴェルディの音楽の力と美しさを十分に堪能させてくれました。9月のスカラ来日公演のドゥダメルよりもずっと歌手にとって歌いやすい良い指揮だったのではないでしょうか。

 新国立劇場のホームページでの《リゴレット》曲目紹介には「初心者におすすめ」のマークがついています。たしかにこの作品は美しく印象的なメロディー満載、ドラマの内容もわかりやすいので、通常であればオペラ入門に最適なもののひとつかもしれません。しかし、新制作の今回のプロダクションは、とても初心者向けとはいえないものでした。
 演出アンドレアス・クリーゲンブルク、美術ハラルド・ドアー、衣裳ターニャ・ホフマンの作り上げた舞台は、時代を現代に移し、場所はホテルという設定。
 プログラムに掲載されているクリーゲンブルクのプロダクション・ノートによると、
「本作を分析して、私はヴェルディが同時代や社会との関連性をもった<現代オペラ>を作ろうとしていたと感じとりました。それで、本作を我々の生きる21世紀に動かそうと決めました。そして、物語の背景をホテルに設定しました。その理由は、ホテルが大都会の代名詞だからです。16世紀のマントヴァ公爵の宮廷のように、大勢の富裕層が集うエレガントな場所であり、<匿名性>が保てる場所ですね。各階にたくさんの扉があり、その扉の向こうで何が起きているかがわからないのです。いわば都市が持つ<隠したい暗部>を比喩する点でもホテルは最適な場所であり、現代社会の縮図たるミクロコスモス的空間なのです。」

 舞台の両袖には同じ形のバーコーナーがありカウンターの中にはバーテン。舞台中央はホテルのグランドフロアの吹き抜けで、奥に円筒形の客室棟があり3階分の廊下と階段が見えています。その円筒は絶えず不規則に回転したり止まったりし、人物たちの出入りに使われます。
 第1幕第1場の公爵宮廷の場面ではそれほど違和感はありません。しかし、そこがそのままスパラフチレと出会う場になったり、リゴレットの隠れ家になるのには、かなり無理があります。
 バーで飲んでいるスパラフチレがリゴレットに声をかけるというのは、まだいいでしょう。しかし、リゴレットの家は、箱入り娘を外界が遮断している閉ざされた空間でなければならないはず。それがそのままホテルの吹き抜けで演じられるのでは、どうにもなりません。侍女のジョヴァンナにリゴレットが「誰にも見られなかったか?戸締りはちゃんとしているか?」と念を押しても、初心者には何が何やらわからないと思います。わざわざお金をかけて舞台中央に大掛りな回転する円筒を作るのであれば、せめて回転すると裏からリゴレットの邸が現れる、いわゆる「回り舞台」にすればよかったのです。

 回転する円筒が唯一「活きた」のは、公爵がジルダとの二重唱で熱烈な愛を歌う場面で、背景の円筒形の3階の廊下を、いかにも凌辱を受けた直後といった風情で長い髪を振り乱し下着姿でドレスを片手に持った娘たちが蹌踉と歩かせるところです。それはまさに演出ノートで「美しさの裏に潜む、邪悪な醜い要素も敢えて見せねば」とする意図をわかりやすく表出しているといえましょう。ただ、あまりにもわかりやすい絵解きで、逆にいうと、その場面では甘い恋人に出会って酔いしれるジルダの心境にそのまま感情移入したほうが観客としても後段に到来する悲劇との落差を深刻に感じることができるのに、「背後で余計なことをしてくれている」という感じがしないでもありません。
 また、第2幕冒頭で公爵がカヴァティーナ<ほおの涙が>を歌う場面。遊び人の公爵が妙に深刻な恋人ぶりで甘いメロディを歌うのにやや違和感を覚えるところではあります。その偽善ぶりを暴くように、廷臣たちがやはり半裸に剥いた若い娘を責め苛む場面が舞台上で公爵の歌と並行して展開するのです。ところが、娘の体には単なる凌辱ではなく明らかに手ひどい暴力を受けたアザや血が滲んでいて観る者を不快にさせます。「ヴェルディの音楽は甘いだけではない」ということをこのような乱暴なやり方で見せることこそが「暴力的」ではないでしょうか。

 第3幕、スパラフチレの家の場面は、もっと酷いことになります。演出ノートでは「ホテルの屋上」と書いてありますが、一流ホテルの屋上に俗悪なお酒の広告塔が立ちホームレスが住み着いている、というのはあり得ないので、別の雑居ビルの屋上だということにしておきましょう。とにかく「美しくエレガントな世界とは対照的な場所」をわかりやすく表現した設定です。
 その怪しげな場所の広告塔の裏側がスパラフチレとマッダレーナ兄妹の寝ぐらとなっており、引っ張り込まれた金持ちの公爵が能天気に<女心の歌>を歌うのです。かなり酔っぱらっているか、ハッパかシャブでもやってハイになっているとしか思えません。その貧乏ったらしさは、例えば『外套』のようなヴェリズモ・オペラを見るようであり、救いようのない絶望感は『ヴォツェック』のように陰惨です。「美しいだけではないヴェルディの音楽」をこのような形でしか提示しえないのでしょうか。
 演出の意図は理解できるのですが、ある意味わかりやす過ぎて、当時としては非常に革新的で様々な工夫が満載されている第3幕の素晴らしい音楽を楽しむためには、いささかうるさい演出になってしまっていました。演奏レベルがなかなか高かっただけに残念です。

 装置にかなりお金がかかっていそうな演出だから、新国立は当分このプロダクションを使い続けるのだろうな、と考えると、ますます残念な気分になります。また、男声合唱しかないこのオペラで、あれだけ大勢のマイムの女性を出すのも贅沢で、初期投資だけでなく運転費用もかかるだろうな、と余計なことを考えてしまいました。


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