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ラ・ヴォーチェ公演《ルチア》(2004年8月6日新国立劇場)を聴いて

武田雅人

 元リクルートの江副浩正氏が主宰するラ・ヴォーチェのオペラ公演を私が観るのは、昨年の《ノルマ》に続いて、これが2回目です。スキャンダルによって社会の表舞台から去る前には日本オペラ振興会のパトロンのような立場におられた方ですから、おそらくオペラが大好きなのでしょう。客席数の少ない新国立劇場で、公的補助のない民間団体が、これだけのキャストによるオペラの公演を打つのは、採算的に大変なはずで、おそらく江副氏が私財を投じているのであろう、と想像します。そうした経営面での努力のひとつとして、公演の映像は全てDVD化して販売しているのでしょう。私が観た8月6日の公演は、その映像撮影がちょっとした問題を引き起こしてしまったようです。

 第1幕の前奏曲開始の時から、その異変は始まっていました。最初、私はあまりにも緊張感のないオーケストラの演奏に、「しまった。S席23,000円も払ったのは失敗だった。ダニエル・オーレンの指揮がキャンセルになったのだから、やっぱり来なければよかった。」と後悔しはじめていました。ステファノ・ランザーニという指揮者は、スカラ座でも振ったことがある実績ある人のはずなのに、なんだこりゃ、と。前奏の間、時々どこからか、かすかに人の声が聴こえてくるのが、ちょっと気になったのですが、最初は、舞台裏でソリストが発声練習でもしているのが漏れてくるのか、と思いました。合唱、そしてエンリーコのアリアと舞台は進んでいきますが、タテの線がきちんと合わず、音楽は精彩を欠いています。エンリーコ役のバリトン、レナート・ブルソンの声も響いてきませんが、彼の場合は、以前にサントリー・ホールで本当に声が出なくなったのを目の前で見たことがありますから、やっぱりもうご老体、かなり衰えているな、

 しかし、この伴奏では歌いにくいだろうな、などと思っていました。第1場が終わり、第2場の泉のほとりに場面転換、ハープのみによる静かな前奏が始まって、やっとおぼろげながら事態が飲み込めていました。ハープに向かって振りながら、指揮者のランザーニの顔は左上方のヴィデオカメラの方をずっと見ています。私の席は2階1列の左端でしたから、丁度見おろすとまん前にその撮影クルーの姿が見えています。

 かすかに聞こえつづけている人声は、どうもそちらの方から聴こえてきているようなのでした。カメラマンがつけているヘッドセットからディレクターの声が「音漏れ」しているのかも知れません。耳がいい指揮者にとっては、それが気になり、集中力を欠いているのではないでしょうか。(これは、私の想像で、事実がどうだったのかはよくわかりませんが。)そのまま、第2場のルチアの独唱、エンリーコとの2重唱も、なんとなく精彩を欠いたままで終わりました。マリエッラ・デヴィーアは、ルチア歌いとして現役最高の歌手のひとりであると思われますが、これでは、昨年のトリエステ歌劇場来日公演でのステファニア・ボンファデッリの演奏と大差ないではないか、と感じてしまいました。勿論、決して悪い演奏ではなく、演奏後には大きな拍手が起こり、特に(おそらく例の「音漏れ」が聞こえないであろう)天上桟敷からは、盛んに「ブラーヴァ」の声がかかっていました。

 第2幕になると、幕間の時間に対策がとられたのでしょう、例の「音漏れ」は聞こえなくなり、演奏も見違えるように引き締まったものになりました。もともと《ルチア》第2幕は有名な6重唱をはじめとする充実したアンサンブルに満ち、ヴェルディのオペラの直系の先輩というべき素晴らしい音楽で構成されているので、私は大好きなのですが、今回公演の演奏も、そうしたドニゼッティの天才ぶりをあますところなく表現できていたと思います。

 通常カットされることが多い第2幕(リコルディのスコアの呼び方によると第2部第1幕)第1場のライモンド(バス)のアリアや、第3幕(同第2部第2幕)第1場のエドガルドとエンリーコの2重唱も全て上演されましたが、少しも緩むところがなく、退屈しませんでした。以前、METでやはりノーカット版の《ルチア》を観た時には、これらの場面はカットされて当然だ、という退屈なものに感じたのですが、今回のような男声ソリスト陣で聴くと、それなりに必然性のある場面であることがよくわかりました。
 さて、歌唱についての感想に移りましょう。

 表題役を歌ったマリエッラ・デヴィーアは、上にも書いたように、第1幕は少し精彩を欠いていましたが、さすが、第3幕の「狂乱の場」では、その本領を発揮してくれました。エディタ・グルベローヴァやルース・アン・スウェンソンに比べると声そのものの響きや輝きが格別すぐれているわけではありませんが、コロラトゥーラの部分の技巧が素晴らしいのは勿論のこと、レガートの部分のフレ◯_ジングや間の取り方、強弱など、ベル・カントの様式感にのっとった歌いまわしが絶妙です。しかしながら、彼女にしては、アジリタの切れがいつもの冴えを見せているとはいえず、声のつやも少し足りないような気がしました。暑い日本にやってきて、体調が万全ではなかったのかも知れません。私は、8月20日にヴェローナで、ヴィオレッタを歌う彼女と再会する予定です。ルチアよりも重い役をあの広大なアレーナで歌う体力を回復していることを祈るのみです。
 エドガルドのマルセロ・アルヴァレス。この役はもう、彼のオハコといっていいでしょう。昨年のトリエステ来日公演の時にも感銘を受けましたが、声の色つやといい、歌いまわしといい、実に鮮やかにこの役に嵌まっています。昨年の公演でもそうでしたが、幕切れにおけるテノールの独壇場での彼の歌唱は、この場面が余計なものではない、ということを改めて感じさせてくれるものでした。彼の声は、適度な甘さと強靭さを兼ね備えた典型的なテノーレ・リリコというべきもので、このエドガルドのほか、アルフレード、マントヴァ公爵、ロドルフォ、ネモリーノなど、テノールなら誰でも歌いたがる最も競争率が高いジャンルに向いているものです。アルヴァレスは、おそらく今や、この分野での現役歌手最高のひとりになってきていると言っても過言ではないでしょう。少し先輩のサッバッティーニやラ・スコーラ、同世代のアラーニャやヴァルガスに比べると遅咲きですが、安定感があり、ある意味では「クセがない」のが彼の個性といってよく、知的でセンスのよい歌いまわしができるテノールであるようと思います。演技の面では、飛び跳ねるような腰高のアクションがやや見苦しく、改善の余地があるようです。せっかく甘いマスクと上背を持ちながら、年々肥満体に近づいているのも問題です。

 エンリーコ役のレナート・ブルソンも第1幕のアリアがいまひとつだったことは既に書きましたが、第2幕以降は「さすが」と思わせるものを持っていました。しかしながら、彼自身がプログラムの中のインタビューで「この役はあまり好きではない」と発言しているとおり、彼のエンリーコ像の捉え方は「自己の保身のために妹を政略結婚させようとする冷酷・非情な兄」という型に嵌まったものであるように思えます。むしろ、当時の領主階級の娘には恋愛の自由など無いのがあたり前であって、仇敵と情を通じ結婚の約束をしてしまうルチアの方が身勝手であり、エンリーコの方が実は「わがままな悲恋」の被害者なのではないでしょうか。

 「家名の存続と一族郎党の生き残りのために当主として懸命な努力と苦渋の選択を強いられている兄の身にもなってみろ」「可愛がっていた妹に裏切られた」という「男の悲しみ」がこの役には現れていなければならない、と私は思うのです。すなわち、後にヴェルディが好んで造型したバリトンのキャラクターのさきがけが、このエンリーコなのです。エットレ・バスティアニーニによって歌われるエンリーコには、こうした複雑な「悲劇の影」が落ちていました。その意味では、ルーナ伯爵やレナートを得意とするバリトンによって歌われるべき役なのだと思います。

 今回の公演がレベルの高いものになったひとつの要因として、ライモンドという脇役に、カルロ・コロンバーラという大物を持ってくることができたことがあります。彼は、イタリア系バスの中では、ロベルト・スカンディウッツィと並んで、現在もっとも脂が乗っている歌手ではないか、と思います。数年前までは、主役級のバスとしては少し「軽い」という印象があったのですが、最近はしなやかな声に少し重みも加わり、カンタンテな役柄では不足感がなくなってきています。今回も、第2幕の通常カットされてしまう(したがってあまり面白くない)バスのアリア<Ah! cedi, cedi...(ああ、諦めなさい)>を、十分納得感をもって聴かせてくれました。ところで、プログラムに掲載されていたコロンバーラへのインタビューの中で、彼が興味深いことを言っていました。

 彼が師事したヴェントゥーリ先生がよくこう仰っていたそうです:『歌なんて、何もそんなに難しいことじゃない。要するに、単に大きな声で話すということなんだから。』これは、私たち日本人で声楽を習う者にとっては、ある種「衝撃的」な言葉でもあり、「やっぱり」と思うことでもあります。衝撃的というのは、私たちは通常、先生から、「歌うことは話すこととは違うんだ」と教わる、ということです。もしかしたら、長唄とか義太夫ならば「大きな声で話せばいいんだ」という指導もあり得るのかも知れませんが、我々日本人にとっては、西洋音楽の発声は、日常の話し言葉と全く異なるもの、として教わり、そのように「意識」しないと、なかなかできないものです。「やっぱり」というのは、西洋音楽の発声は、イタリア人にとっては話すことの延長なんだ、ということです。この差は大きい、とため息が出るところです。

 演出はヴィンチェンツォ・グリゾストミ・トラバリーニ、美術・衣裳はアルフレード・トロイージ。装置は2002年の新国立劇場公演のものをそのまま使用したとのことで、短期間の公演にしては豪華なものになりました。あまり奇をてらわない堅実で重厚な舞台であったと思います。特に狂乱の場でのルチアの登場シーン、宴会場の壁が左右に分かれると奥に階段があらわれ、白いヴェールを長くひきずったルチアが降りてくる場面は、美しく、印象的でした。






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